下痢の治療ガイド

-大柴胡湯(だいさいことう)-

大柴胡湯(だいさいことう)の効能

体力が充実して、水おちから両側にかけて抵抗圧痛があり、胃部につかえ感があり、便秘、肩こり、不眠、耳鳴り、口渇、舌に黄色い苔がある人に用います。高血圧、肥満、脳卒中、動脈硬化、便秘、肝機能障害、胆石、ぜんそくなどに応用します。急性の下痢に適しています。

腹痛と渋り腹があり、ムカつき、嘔吐、口の渇き、食欲不振などを訴えている下痢に効果的です。みぞおちが張って抵抗と圧痛があり、舌に黄色っぽい苔があることなども目安です。


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大柴胡湯(だいさいことう)の解説

便秘がちで「胸脇苦満」がある人

消化器系に不調がある人によく使われる漢方薬です。体格がよく、体力もあって腹カが充実した人で、便秘がちで上腹部が張って苦しく、診察で「胸脇苦満」が認められるような場合に処方されます。

悪心・嘔吐や食欲、不振、肩こりや頭痛、耳鳴り、不安感、イライラなどをともなっていることもあります。

具体的には、便秘、胃腸炎、胃酸過多病、胆石症、胆のう炎、肝機能障害、黄疸、じんましん、不眠症、神経症、肥満症などさまざまな症状、病気の治療に用いられます。

高血圧の随伴症状

生活習慣病の治療においても、高血圧にともなう肩こり、頭痛、便秘、のぼせ感などの症状を改善するために用いられることがあります。

また、血中の中性脂肪やコレステロールを減らす作用があるとの報告もあり、動脈硬化予防を目的に使われることもあります。

副作用で腹痛、下痢などが起こったり、まれながら間質性肺炎、肝機能障害、黄疸が起こることもあります。

適応される主な症状

  • 下痢
  • 高血圧
  • 動脈硬化
  • 肝機能障害

配合生薬

配合生薬の効能

柴胡(さいこ)

柴胡は漢方治療で解熱、消炎、鎮静、鎮痛薬として多用される重要生薬の一つです。主成分としてサイコサポニンA~Fなどのサポニンを豊富に含み、動物実験で上記薬効を裏付ける多くのデータが報告されている他、臨床的に肝機能障害の改善作用が認められています。

漢方では主として胸脇苦満、風邪、咽頭の痛み、気管支炎、肺炎などで炎症熱のあるもの抗炎症などを目標に慢性肝炎、慢性腎炎などに処方されます。

一時柴胡を配合した漢方薬が、一部の肝機能障害患者で副作用と思われる症状を示し、問題になつたことがありますので、他の医薬品と併用する場合は医師とよく相談してください。

半夏(はんげ)

半夏には水分の停滞や代謝障害の改善作用や、鎮吐効果(吐き気止め)があります。特に胸腹部に突き上げるような膨満感があり、お腹がゴロゴロなる場合やのどの痛みがある場合に用います。

しかし、えぐみが強く、飲みにくくてかえって吐き気を催すこともあるので、単独で利用されることはまれで、漢方では吐き気をともなう胃腸障害や、つわりの適用処方などに広く配合される重要生薬の一つです。

鎮吐作用は、有効成分のアラビナンを主体とする多糖体成分によると考えられています。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。

黄ごん(おうごん)

漢方の中でも最もよく利用されるものの一つで、主に炎症や胃部のつかえ、下痢、嘔吐などを目的に使用されています。

黄ごんエキスは、炎症に関与する諸酵素に対して阻害作用を示しています。これらの作用は、この生薬中に豊富に含まれるフボノイドによるもので、特に有効成分バイカリンやバイカレイン、およびその配糖体はプロスタグランジンらの生合成やロイコトリエン類などの炎症物質の産生を阻害します。

その他、抗アレルギー(ケミカルメジエーターの遊離抑制)、活性酸素除去、過酸化脂質形成抑制、トランスアミナーゼの上昇抑制による肝障害予防、および胆汁排泄促進による利胆作用などが確認されています。

また、ヒト肝ガン由来培養肝がん細胞の増殖を抑制する他、メラノーマの培養細胞の増殖を抑制することより抗腫瘍効果が期待されています。漢方で多くの処方に配合されていますが、単独で用いられることはありません。

芍薬(しゃくやく)

芍薬は漢方処方で最もよく配合される生薬の一つで、主として筋肉の硬直、腹痛、腹部膨満感、頭痛、血滞などに広く処方されています。

主成分のモノテルペン配糖体ペオニフロリンには鎮痛、鎮静作用の他、末梢血管拡張、血流増加促進作用、抗アレルギー、ストレス性潰瘍の抑制、記憶学習障害改善、血小板凝集抑制などの作用が有ります。その他、非糖体ペオニフロリゲノンには筋弛緩作用が認められています。

大棗(たいそう)

大棗は滋養強壮、健胃消化、鎮痛鎮痙、精神神経用薬として、多くの漢方処方に配合されています。

含有サポニンのジジフスサポニンによる抗ストレス作用があり、アルカロイド成分リシカミンのおよびノルヌシフェリンなどによる睡眠延長作用、多糖体ジジフスアラビナンによる免疫活性などが報告されています。

その他、サイクリックAMP(環状アデノシン一リン酸)があります、サイクリックAMPは脂肪組織を構成する中性脂肪の分解を促します。また、含有成分フルクトピラノサイドには抗アレルギー作用が認められています。

枳実(きじつ)

ダイダイの果皮を橙皮といって、健胃薬、風邪薬として利用されます。有効成分は精油成分のリモネンです。リモネンには中枢抑制、末梢血管収縮、胆汁分泌促進、血清コレステロール低下作用などが知られています。

未熟果実を枳実といって、やはり健胃薬とする他、下痢止め、去痰、排膿薬として利用されます。効能は橙皮と同様、主として精油成分による他、フラボノイドのヘスペリジン、アルカロイドのシネフリンなどに由来します。枳実の水性エキスは動物実験で、胃腸運動の充進・抗炎症・抗アレルキー作用を示すことが明らかにされています。

枳実より採集時期が1~2ヵ月遅く、やや大型のものを枳殻といいます。

大黄(だいおう)

大黄は瀉下(下剤)、消炎性健胃薬として、常習性便秘症に使用されます。

ジアンスロン成分であるセンノサイドA-Fに瀉下作用が認められます。センノサイドA-Fは腸内細菌によって強い瀉下活性を示すレインアンスロンに変換されるからです。

フェノール配糖体の一種リンドレインには消炎、鎮痛作用が認められています。またタンニン成分に、血中尿素窒素(BUN)低下作用が報告されていることから、腎不全改善効果も期待されます。

漢方では、特に実証の人(体力がある人)の便秘薬として他の生薬と配合して高い効果をあげていますが、大黄には子宮収縮促進作用や骨盤の充血増長作用があるため、産前、産後や月経期間中は使用しない方がいいです。

漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用


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下痢に処方されるその他の漢方薬

漢方薬は、自分の証に合ったものをお選び下さい。

「証」とは体力、体質、症状などから患者さんの状態を総合的に観察した診断結果のことです。

  • 実証は生理機能が高まった状態を意味して、外見は健康そうに見えます。
  • 虚証は体力がなく、生理機能が衰え、抵抗力も低下した状態を意味します。
  • 中間証は実証または虚証のどちらも偏らず、それぞれの特徴を半分ずつもつ場合を意味します。

「証」の判定は証の自己判定テストご利用ください。

実証

中間証

  • 五苓散(ごれいさん)
    水様性の下痢をして、ノドが渇いて水を飲むのに尿の出が少なく、ときに水を飲んでもすぐに吐いてしまう人に合う処方です。小児の下痢にも効果的です。
  • 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
    みぞおちと、左右の肋骨の下あたりが緊張して硬く張り、腹痛、下痢、ムカっき、嘔吐などがあるものに用います。ストレスによる下痢に有効です。

虚証

  • 人参湯(にんじんとう)
    ふだん胃腸の弱い人が、おなかを冷やしたり冷たいものを食べて下痢をしたという場合に効く処方です。脈も腹も軟弱で、口のなかにツバがたまる、胃に水が停滞してピチャピチャと音がするなどの症状が目安です。
  • 真武湯(しんぶとう)
    ふだんから胃腸が弱く、冷え性で疲れやすい、とくに腸の症状が悪く、激しい下痢をした後にぐったりと疲れを感じるという人に向いています。よく人参湯(にんじんとう)と合方して用います。
  • 胃風湯(いふうとう)
    真武湯(しんぶとう)を用いるような虚弱体質の人の下痢で、粘血便の下痢が続いて、渋り腹がある場合に有効です。
  • 桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
    下痢の回数は多いものの、1回の量は少ない、腹痛と渋り腹がある、絶えず便意をもよおして苦しむという場合に用います。腹部が膨満し、腹直筋が緊張することも目安です。
  • 大建中湯(だいけんちゅうとう)
    普段から下痢をしやすく、冷房などで冷えると腹痛とともに下痢がひどくなるような人に用います。腹部が全体として軟弱で、腸管の動きを外から見ることができるようなものに適しています。

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